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M&A紛争における損害算定の注意点

近年、M&Aに係る紛争では、仲裁や訴訟に発展するケースが増えてきている。M&A紛争における損害算定では、会計、フォレンジック又はコーポレートファイナンスの視点からの分析が中心であり、そこにバリュエーションの問題が加わることもある。

M&A関連の紛争における損害算定には、いくつかの注意点がある。本稿では簡単にそのポイントを解説する。なお、より詳細な解説にご関心のある読者は、こちらから詳細版へアクセスいただきたい。

M&A紛争における典型的な問題

M&A紛争を発生時期(最終契約やクロージングの前後)や潜在的な問題点別に整理すると、一般的に、以下のように分類できる。

  • フォレンジック調査、会計分析、バリュエーションのいずれか(又はこれらの組合せ)を必要とする最終契約前の問題。
  • 調査やバリュエーションに関する最終契約からクロージングまでの期間の問題。
  • バリュエーションと会計に関連したクロージング後の問題。

そして、問題ごとに、紛争の基礎となる事実関係の分析に必要となる損害算定の専門知識は異なり得る。

仲裁が成功に終わるかどうかは、申立人が申立てを正当化する事実を証明できるかどうかだけでなく、しばしば申立人・被申立人の間で相互依存関係にある申立てをどのように処理するかにも左右される。財務面で相互に依存し得る複数の申立てがある場合、その相互関係を分析し、仲裁判断に同一事項の効果が複数回カウントされないようにしなければならない。

損害の立証に係る注意点

損害賠償の基本的な目的は損害を受けた当事者の原状回復である。しかし、この単純な損害賠償の原則も、法域や当事者間のM&A契約の内容に応じて修正・調整されなければならないことがある。実務においては、このような修正・調整は複雑なものとなり得る。以下、頻繁に問題となるいくつかの点について簡単に説明する。

誤解されがちなM&Aにおける損害の定量化

M&A関連の紛争が発生した場合、損害額をどのように定量化するかという問題に直面する。「差分法」は、(損害が発生した)実際の状況と(損害が発生してない)反事実の状況について、財務状況の差を損害額として算出するものであり、最も一般的に使用されている分析手法である。

大規模な紛争においては、損害額を「差分法」により計算すべきか検証することが望ましい。1年以上の期間にわたり影響が生じているような大規模な紛争においては、大抵の場合、「差分法」が望ましい。しかし、小規模、又は、影響の及ぶ期間が1年以内に限定される損害については、実損を直接的に算定することが望ましい場合が多い。

財務諸表が100%正確とは限らない

損害の定量化に当たって、財務諸表は重要な情報源となる。M&A関連の仲裁においては、被申立人が、財務諸表は監査済みであり、そこに記載されている金額は正しいはずだと主張することが多いが、これはよくある誤解である。

監査の実務では、監査人は統計的サンプリングに基づくリスクベースの手法により監査を実施する。例えば、総資産や収益などに対して一定の閾値を設定し、これらの閾値を超えなければ、財務諸表の虚偽表示を「重要」とはみなさない。しかし、一度限りのM&A関連の紛争の場合、各当事者の閾値は監査における閾値とは異なる可能性がある。このことは、金額ベースの損害算定アプローチが、財務諸表の情報のみに基づくのであれば、さらに慎重な財務諸表の検討が必要であることを意味する。

買収価格の調整(PPA)メカニズムの幸と不幸

M&Aでは、クロージング時点の財務状況に基づき、買収価格を調整することについて当事者間で合意することが多い。理論的には、買収価格の調整メカニズムには、買収価格に関連する重要な要素をカバーするために、クロージングまでの期間において相互依存関係にある重要な財務上のパラメータをすべて含むべきである。一方実務的には、複雑な調整にならないよう、当事者間で簡略化された買収価格の調整メカニズムに合意することが多いが、調整メカニズムに含まれないパラメータがあることが一方の当事者にとって有利又は不利に働く可能性がある。

「ロックド・ボックス」方式が本当の意味でロックされていない可能性

一般的に、M&A対象企業の経済的移転はクロージングとともに行われる。しかし、クロージングは、財務分析が行われ、当事者が買収価格に合意した後に行われるため、価格調整条項が最終契約書に盛り込まれることが多い。この買収価格の調整は、買収価格の根拠となる最終基準日とクロージングまでの間に発生した経済状況の変化を反映したものでなければならないが、このような買収価格の調整が紛争の火種となることは多い。

「ロックド・ボックス方式」は、売り手側がよく使う価格調整メカニズムであり、価格調整に係る紛争リスクの低減を目指すものである。この方式では、経済的な所有権の移転は直近の監査済み財務諸表の日付など、過去のある時点で行われる。過去の財務内容が修正されることは稀であることから、買収価格調整に関する紛争は発生しないはずである。

しかし、ロックド・ボックス方式に「リーケージの禁止」条項やその他の調整を加えることが、しばしば紛争の種になっていることには注意が必要である。

買収価格マルチプル-損害額が高騰する場合

M&A関連の紛争において、買収価格がマルチプル法によって算定されることがある。買収価格のマルチプルは特殊な位置づけにある。例えば、損害額が、EBITマルチプルによって導かれる買収価格の基礎となる平準化EBITと関連付けられる場合、損害の補償が1度で済むか、それとも、複数回(EBITマルチプルに等しい回数)にわたるのかが問題になる。損害の補償が複数回にわたって考慮されると、損害額は相当程度大きくなる。

一般に、経常的な財務への影響(例えば、事業計画の検討に含まれた顧客のうち、既に失われている顧客)については複数回分、請求できる可能性がある。一方、見過ごされた引当金など、一度限りの効果に対して複数回の請求は認められない。

まとめ

以上、近年のM&Aに係る紛争が仲裁や訴訟に発展するケースが増えてきていることを踏まえ、昨年末に公表した論稿から、損害算定の注意点をいくつか簡単に解説した。

 次回は、株主間紛争に関連する仲裁における損害算定について解説することを予定している。

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